11.いくじなし


 日向家の居間に、夏美を含めいつもの顔が揃っている。俺には不釣合いな午後のまどろみの時間だった。ケロロたちはテレビドラマの再放送に真剣だ。夏美も同様のようで、俺だけの視線が定まらない。
「ぷは〜っ、ハイ一旦CM〜!夏美殿トイレ行っとく〜?」
「余計なお世話よ!」
 よほどドラマに夢中になっていたのか、菓子の存在にはたと気付き頬張る夏美。俺もその菓子と同じ存在だったらしく「あら、ギロロも観てたの?」などと言う。俺は小さい痛みを感じたが、「そんな軟弱なドラマなど!」と悪態をついた。

「んな硬いこと言っちゃって、ギロロってば〜。参考になるドラマでありますよ〜?」
「なっどこがだ!?」
 そのドラマが恋愛ものだとは知っている。見事な反応をしてしまった俺を、皆が好奇の目で見る。
「なんだちゃんと伍長さんもチェックしてるんじゃないですか?主人公は生きる世界が違う女性に恋をしてしまったってまるでどこかの誰かさんみたいですぅ〜」
 タママは菓子を忘れてはいない。絶えず口を動かして、無邪気にそう言う。
「ってゆうか、自己投影?」
 オイ、ライフルを向けられる覚悟はあるんだろうな?
 向かいに座る夏美の反応を確かめる勇気などなく、俺はライフルの照準をケロロに合わせる。
「ってなぜ我輩?」

「何の話?軍曹たち」
 どうやら冬樹は何も事情がつかめないらしい。のんきににこにこして聞く。

「ホラ、もうすぐCM終わるわよ」
 夏美がそう言うと事態は収束し、俺の怒りも立ち消えに向かう。
「いよいよクライマックスでありますよ!」
「でもここから告白ができなくてぐだぐだになるんですよね」
「タママ、僕は、初めて観るんだから、ネタバレダメだよ〜」
「ごめんですぅ」

 俺に対する嫌味も含んでいるのか、俺は勘ぐってしまうが、ここは無視したほうがいいだろう。CMは終わり、無駄なおしゃべりもここまでだろう。
 俺をここに引き止めていたのは夏美の存在だけだったことにいまさら気付く。そろそろ重い腰をあげようとするか。

「いくじなしよね…」
 膝にひじをつけそこに顎を乗せ、視線はテレビに向かう夏美がそう言った。
「全くであります」
 ケロロたちは素直に賛同した。ドラマの主人公の話だ。俺には関係ない。関係ないはずだ。なのになぜ心がざわめく。答えを求める心境で、夏美の横顔を見つめる。

「そんなとこも、…好きなんだけどね」

 夏美は一瞬俺に視線を流した。それも見間違えかと思うほどで、すぐに夏美はテレビに戻った。だが、彼女の心は画面の中にはないのかと、俺は思った。

 俺はいくじなしだ。
 それでいいと思っていた。いくら想っていても告げられそうにない、叶いそうにない恋だとあきらめていた。自分の甲斐性のなさを直視せず、身の程知らずの恋のせいにしていた。

 夏美は待っているのだろうか。それは俺にはわからない。彼女が俺にそんな気持ちでいるのか、どんな答えを出すのか、なにもわからない。
 だが、ひとつだけはっきりしていることがある。

 俺の気持ちだ。

 いくじなしを返上したい。この想いをおまえにぶつけて。




fin


2006.10.18


イケイケ伍長ー!!
告白は男から。ヘタレver.でもカコイイver.でも伍長さんならなんでもOKですー!

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