7.ダイスキ


「……っぐ…」
「駄目ですよ。夏美さん!ちゃんと答えてください!」
「だって…。というより何でいまさらそんなことを聞くの?そんなことしなくてもあたしと小雪ちゃん、もう十分に仲良しじゃない!」
「駄目です!」
 と、小雪ちゃんはあたしの腕にしがみつく。そう簡単にはあたしを逃がしてはくれない。
 怖いんだけど!目がマジだから。

 久しぶりに小雪ちゃんとお買い物に街に出てきたんだけど、初っ端から小雪ちゃんは質問攻め。
「じゃ、続き行きますよ。えっと『薔薇』は好きですか?嫌いですか?」
 さっきからこんな調子。好きと嫌いの二者択一の質問も、二桁を超えるときついものがある。ちょっと引き気味のあたしにやっと気付いた小雪ちゃんは、眉尾を落として寂しそうに言った。
「えっと…ですね。だって、私、夏美さんのことっ…、ううん!あのっ、普通の女の子ってどんなのかまだわからないんですよ。だっだから!」
「小雪ちゃん…」
 世間に染まらない小雪ちゃんには、もっと勉強がいるのかもしれない。でも、あたしは純粋で変わらない彼女が好きだ。そして困った顔の彼女には弱い。
「薔薇は赤いのだったら好きよ」
「夏美さん!……じゃね、じゃね、『お風呂』は?」
「大好き!」
 
 雑貨屋さんを二つ梯子して、オープンカフェで一休み。そこで小雪ちゃんの例の質問が再発する。あたしはすっかり慣れて、買ったばかりのポーチの包みを解きながら、質問に答えた。ありとあらゆるものの好き嫌いを。団子は好き、テレビも好き、ナメクジは大嫌い、ミニスカートは好き、雷は嫌い、などなど。
 注文した温かいココアがテーブルに運ばれたとき、小雪ちゃんはこの質問をした。
「『ギロロさん』は?」
「え…っ」
 小雪ちゃんにとっては多くの質問の延長に過ぎない。あたしの反応を不思議がりもせず、ココアを一口飲んで頬を緩めている。
「聞こえませんでした?『ギロロさん』って言ったんですよ」
「なっなんで…」
 やだ、指が震えて、カップが上手く持てない。
「ここのココア美味しいですねえ。ん?私、変なこと聞きました?」
「き、嫌いよ!あんな侵略者なんか……」
「嫌い…なんですか?」
 小雪ちゃんはなぜか肩を落とす。
「どっどうして、そんなことっ」
 あたしの動揺は、小雪ちゃんには想像がつかないみたい。異星人を嫌うあたしにがっかりしているようだった。
「私はドロロとお友達だけど、夏美さんはそうじゃないんですか」
「ボケガエルと冬樹とか、小雪ちゃんとドロロみたいにってこと?」
「はい、他にどんな意味があるんですか?」

 あたしの表情が固まったはずだ。だけど小雪ちゃんの言葉に別の意味が含まれていないようで、ココアをまた一口すすった。
「…いなけりゃ寂しくなるわよ。…多分」
「夏美さん!」
 小雪ちゃんの目が輝いた。あたしの手を握り、「そうですよね!だってお友達なんだもんね!」と深く何度も頷いた。
「友達…」とあたしは無意識に打ちに呟いた。
「そうですよ!お友達ですよ!」
 満足な微笑をあたしに向け、小雪ちゃんは次の質問を考えている。あたしはというと…。



 小雪ちゃんと別れ、家に戻ってきた。玄関に立ちすくんでしばらく、庭に足を向けた。
 赤いテントはそこにいつもある。昨日も、今日も。もはや当たり前になるその風景に、あたしは心からほっとした。
「ただいま」とかすれる声でテントに呼びかけた。そこの主は地下基地かどこかに出払っているようで、気配はなかった。

「『友達』の好きじゃ、ないんだよ…」

 あたしはアンタを待っているのよ。あたしと同じ意味で『好き』と言ってくれるのを。
 そうだよ。


 ダイスキ。





fin


2006.11.14



ていうか、主役不在?

ギャーーー

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