てのひらに夢
from 966 side ![]() サブローが日向夏美に仕込んだ集音機を外させることは、予想済みだったんでね。もう一つ用意させてもらったんだよ。 しかも動画だ。もちろん録画も抜かりなく。 俺のラボのメインパネルには、出来立てのカップルの帰りを半分冗談で待ち構える野次馬が映っている。リビングが定員オーバーだ。珍しくドロロも呼ばれたのか。隊長は祭り好きだからな。 さてと、そのカップルはどうなってるかな。この画像は今のところ、あの野次馬にお披露目はしていない。 何故かって、先輩の弱みを握っておくためさ。俺のライブラリーの肥やしになる予定だ。 「やっぱりというか、さすがというか」 ラボの入り口のセンサーが作動しなかったはずが、侵入者は俺の隣にもう座ってやがる。 「チッ負け犬が」 「演技だよ演技。クルルの計画だろう?」 「違うね。主犯はおまえだろ、サブロー。俺は協力者だぜ」 憎まれ口もさらりとかわす。それが俺たちだ。今更俺の嫌味など気にしないだろう。そのサブローだが、今回ばかし事情が違うようだ。 「らしくないって言うんだろ?わかってるよ。でも、結構凹んでる」 「くっくっくっ。だから無理するなと言ったろ?ほらおまえのお望みの結果になったようだぜ」 コンソール脇の小さいディスプレイの中の二人は、手を繋いだまま話し続けている。音声はオフにしたままだったが、一見で甘ったるい空気だとわかる。ちょいと巻き戻しして、キスシーンを出してもよかったが、サブローの様子じゃ冗談にできる雰囲気でもない。 「俺は予想外だったぜ?おまえさんも勝機がなかったわけじゃあるまい?もう少し粘っても良かったんじゃねえの?」 「いいや。可能性ゼロだったよ。何年か前だったら違ったかな……。いや、伍長さんには適わないよ」 「くっくっくっ。恐ろしいほどに純愛だったからな。敵に回すと嫌なタイプだ」 「クルルはどっちの味方だった?」 「なんだよ、その言い方」 生き物として正常な感情を、俺は持ち合わせてない。あるとしても、損得勘定で成り立つ友情くらいだ。 「俺とギロロ、どっちが夏美ちゃんと上手く行けばいいと思った?」 「俺の感情は抜きで、夏美はおっさんに惚れてたじゃねーか。おまえさんの企画に乗ったんだ。どっちか贔屓するもんじゃねーだろ。くっくっく」 「ふうん」 サブローはそれ以上聞く気をそがれたようで、メインモニタに目を移した。 居間の空気はまだ高揚したままだ。俺は鼻で笑った。 「もうすぐ主役の到着だぜ。俺たちも行くか?」隊長の影響なのか、どうやら俺も祭好きになったもんだな。 「え?録画しなくていいの?」 「俺を誰だと思ってる?」 「……さすがクルル!」 サブローが大笑いした。器の小さいペコポン人種らしく、まだ少しは苦い思いをくちびるの端に残していたが、足は出口へと動いた。 「俺とおまえだけの秘密だぜ」 親指を立てて見せると、サブローは心底明るく笑って同じ仕草をした。 「くーっくっくっく」 おっさん、覚悟して帰ってくるんだろう? お望みどおり、質問攻めにしてやるよ。 間違っても礼なんかするなよ。俺の信条はあくまでもトラブル&アクシデント。弱みを握っているんだ。楽しませてくれよ。 |