てのひらに夢
3

from G side


『サブローが日向夏美に告ったそうだ』
 クルルのその一言は、俺に絶望と向き合う時が来たと教えた。何の為にその言葉を皆が集まったケロロの部屋で言ったのか、俺にはわからない。俺がショックを受けることも知っていたはずだ。全くもって嫌なやつだ。
 ケロロは俺を気遣ってか、絶句した。タママなんか俺の代わりと思うほど泣き出したほどだ。
 だが、俺は何も感じなかった。いや感じないようにしたのか、テントに閉じこもった。


 テントの中は俺独りの空間だ。
 取り繕うことなどしなくていいんだ。惨めな姿を誰に見られることもない。プライドも見栄も虚勢もいらない。
 そうだ、泣いてもいいんだ。

「……こんなときまでソルジャーでいたいのか?」
 自分を嘲て笑う。
 だがどれだけ煽っても、涙はこぼれなかった。悲しくないのか、悔しくないのか。
 夏美を諦める準備が出来ていた為なのか、俺は以外に冷静でいられた。

 夢は俺の手には入らない。
 掌ですくった水のように儚い希望だった。
 夏美と心を通わせることなど、初めから願ってはいけないものだったのだ。

「これで侵略に専念できるか……」
 自ら鼓舞させようと故意に発した言葉を、心がすぐさま否定する。

 できはしない。
 彼女が住む星を侵略など、できるはずがない。夏美への想いを深くするにつけ、心の隅で侵略に懐疑する気持ちが大きくなった。
 彼女を苦しませることはできない。だが、他の男に護られる夏美の側には、もういられない。

「ちくしょう!」
 まるで八方塞だ。俺の居場所はここにはない。気持ちの行き着くところもない。
 地面に拳をふるった。腹のベルトが揺れる。ふいに俺は俯いてその中身を覗いた。

 夏美の写真だ。
 これといって激戦があったわけではないペコポン侵略だが、短くもなかったその間、俺を守ってくれた夏美の写真だった。
 金属の中に収められた彼女の姿に、俺はいつも慰められ癒された。

 写真の彼女がふいに濡れた。俺は大粒の涙を流していた。
 泣こうとしても泣けなかったはずが、紙切れの彼女がまたもや俺を素直にさせたのか。

「……夏美……ぃ」
 俺はなんと惨めで情けないのか。
 こんな俺をおまえが知ったら、罵るだろうか、呆れるだろうか。
「俺は、バカ……だ……」
 この期に及んで、夏美の反応を気にするほど女々しいのか。醜態に嫌気がさし、止めようとするが、涙が零れ落ちるばかりだ。

 他の男を愛する彼女を見つめるのも苦しい。
 侵略もできない。
 では、おのずと俺の道は決まってくるだろう。

「去ろう……」

 この星から。彼女の側から。






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2007/02/03

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