てのひらに夢
4

from N side


「おっさん探してんだろ?」
「クルル!」
 庭のテントにはもうギロロの気配はなかった。地下基地に行くしかないかと思った時に、クルルに声をかけられた。居間のソファに足を組んで座っている。

「あのねえ!アンタどうしてあんな事言ったのよ!」
「んあ?ああ、サブローのことか。本当のことだろ?」
「だから、どうしてよ!?」
 言う必要はなかったことでしょう。人の恋愛の話なんか興味もないくせに。

「強いて言えば、俺の信条かな」
「クルル!!」
 クルルは隠しているつもりのあたしの心を読んでいるかもしれない。ギロロを気にかけるあたしなど、怖くないのだ。あたしだって、怒っても手ごたえのないクルルを相手にしている場合ではない。強く睨んで、部屋を出ようとした。

「おっさん、除隊願い出したぜ。泣けるよな。あんたの幸せを願って、身を引くなんてな」
「…う、嘘…。それって…」
「ケロン星に帰るってことだ。おっさん、よほどアンタにマジらしいな」

「……やっやめてよ!」
 思わず大きな声を出してしまった。自分の口を押えると、身体が震えているのに気付いた。眼の奥に涙があがってくる熱さを感じる。
 ギロロを探さなきゃ。
 何を言えばいいのか、どうすればいいか、何も答えはでてないけど、ギロロと会わなければ。

「探すんだろ」
「……クルル…?」

 庭にソーサーが浮かんでいた。相変わらずの笑いのままのクルルが乗っている。
「連れってくれるの?」
「まあな」



「どんな心境なのよ」
 冷たい風が熱い頬を冷ましてくれる。今日は下の街の景色も、澄み切った空の色も、視界を通り過ぎるだけだ。
 黙って前を見るしかなかったクルルがやっと口を開いた。
「俺の信条だ」
「……それって、トラブル&アクシデントだっけ。……やっぱなんか企んでるってこと?」
「覚悟しとけばいいんじゃない?」
 と、嫌な含み笑いをした。

「……まあでも、……付き合いも長いからな」
「どっちのこと?」
 ギロロのことなのか、それともサブロー先輩のことなのか、あたしにはわからなかった。クルルは答えなかった。
 アクシデントを期待しいるのか、それともどっちかのフォローをしているのかわからない。

「クルル、あたしの気持ち知ってるのね?」

 クルルの眼鏡に冬の太陽の日が反射する。眉間をひそめてクルルは言う。
「おっさんと冬樹くらいだぜ。気付いてないのは」

 あたしはもうクルルに怒る気もなかった。
 あたしの気持ちをわかってる上で、ギロロに会わせようとしてくれているクルルの真意がわかったような気がしたからだ。
 ギロロを止めろ。そう言ってくれているのかもしれない。

「着いたぜ」

 そこは西澤タワーだった。
 クルルがあたしを下ろしたのは、タワーの頂上ではなく、一つ下の階にあたる足場だった。
「ギロロは?」
「シッ!声だすな。……面白いものが聞けるぜ?」
 ソーサーに乗ったままのクルルは、あたしに豆粒ほどの機械を投げた。耳につけろとジェスチャーで教えてから、クルルは降下して、タワーから離れた。アンチバリアのレベルを上げる前に、親指を立てた拳を見せた。
「……ありがとう、クルル」

 ギロロはこの上にいる。
 はやる気持ちを抑えて、まずは耳に機械を入れた。

『……夏美を幸せにすると約束しろ』

『伍長さんが心配しなくてもいいよ』

 タワーの上にいるのは、ギロロとサブロー先輩だった。






continue

2007/02/08

オナハシに戻ります