てのひらに夢
7

from G side


 俺が知る彼女ではなかった。小さくなって座り込んでいる夏美は、迷子の少女のように心許ない。
 出きることなら、駆け寄って抱きしめたい。

 こうなった事情はわからないが、俺にチャンスが与えられたのだ。望んでもいなかった最後の告白を。
 サブローのお節介を受けるとしよう。

「……聞いていたなら、話は早い」
 距離を少しおいているとはいえ、目の前の彼女を正視するのは簡単ではない。だが、心は決まった。俺は彼女に視線に合わせた。

「何より夏美の幸せを望んでいる」
「……うん」
 夏美はこくりと頷いた。新しく涙の筋が頬を伝った。

「だからおまえを迷わせることはしたくなかった。でも、俺は……」
「うん」
 夏美は俺を励ますように、また頷いた。その先を聞きたがっている、そう見えるのは俺の思い込みじゃないのか。

「俺は……」
 拳を握り締めた。掌中の汗を感じて、気付かぬふりしたはずの緊張が高まる。

「どうせケロン星に帰るんでしょ。これ以上どんな恥を掻いたとしても、もう手遅れよ」
 夏美は痺れを切らせたように、突然強気になった。見つめる視線も睨むように強いものになった。眼底に残っていたせいなのか、目尻から涙がまた溢れた。
 星へ帰れとも取れるショックな言葉だったが、踏ん切りがつきそうだ。

「後悔するなよ。よく聞いとけ。貴重な俺様の言葉だ。二度と聞けないぞ」
 空気を喉に溜めた。言葉に俺のありったけの気持ちが乗ればいい。祈る気持ちで、俺は言葉を吐いた。

「おまえが好きだ!
 ペ、ペコポン侵略より、ケロン星より、武器より、なにより……おまえが大切だ。……わかったか!」

「……うん、わかった」
 夏美は俯いた。まとめてない長い髪が、夏美の表情を隠している。俺は身体の向きを変えた。羞恥の極みだった。同時に後悔も感じていた。

「よ、よし!これで思い残すことはない!
 心で痛みを感じていたが無視を決め込んだ。虚勢とすぐわかる笑い声をあげ、俺は明るく振舞った。
 夏美の返事を待つつもりはない。それを強調したかった。

「二度と聞けないのは残念」
 視界の片隅の夏美が顔を上げた気配を感じた。俺は見られなかった。
「ああ、だから貴重だと言ったろう。これで忘れたくても忘れられなくなったか?何年かに一度でも思い出してくれ」
 おどけてみせる俺に話をあわせて欲しい。これ以上惨めにはなりたくない。

「毎日、聞かせてくれなきゃ思い出さない」
「え?」
 俺は、思わず夏美の表情を確かめた。彼女は照れくさそうに笑っていた。






continue

2007/02/27

novelに戻ります