特別な日なら…
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G viewpoint


 見てて気持ちのいいものではない。いや、はっきり言って面白くない。


 夏美の部屋から楽しそうな歓声が数十分続いたと思ったら、夏美とケロロが仲良く並んで台所に入って行った。その後も2時間に渡り、料理にいそしむていたらく。結果いい匂いが立ち込めて、ふいに俺も唾を飲んだが。
 その間、俺は悶々と曇りのない銃を磨いていた。


 夕闇が迫ってきたころ、やっとケロロは一人になった。俺は夏美の姿が見えないことを確認し、居間に上がりこんだ。
「ええいッ貴様、少しは俺達の立場も考えろ!ペコポン人と馴れ合ってどーするつもりなんだッ。毎日毎日…」
「なんでありますか、急に!ギロロ伍長!?」
 俺から叱られることにも慣れていやがる。ケロロは平然として俺の怒りに動じない。余計に腹が立つというものだ。
 俺はケロロの胸ぐらを掴んだ。そのまま首をしてめやろうか!?このボンクラが!!

「つか、ギロロが怒ってんのは我輩たちの任務とは関係ないんじゃないの?」
 薄目になったケロロがほそくんだ。
「お、大有りだ!!というよりそれしかあるまい!!」
 これ以上はやぶへびだ。わかっている、わかっていても引っ込みがつかない。それにケロロに弱みを握られているようで、軍隊仕込みの男のプライドがそれを許さない。

「はっきり言っていいでありますか?ギロロ伍長!」
 完璧に優勢をとられた。ケロロは愉快そうに喉を鳴らす。

「何やってんの?またケンカ?仲がいいんだか悪いんだか」
「なっ夏美!?」
「何よ?あ、ボケガエル、これでいいかな?」
 夏美は俺など眼中にない態度で、ケロロに話し掛けた。なにやら俺にはついていけない料理の話らしく、ケロロは夏美から小ビンを受け取り、「これで充分であります」と言った。何事もなかったように談笑し、台所へ立つ。ケロロ用にテーブルのいすを台所に付けてやり、夏美はケロロを持ち上げ、それに立たせた。
 ケロロは横目で俺をチラリと見た。嫌な目つきだ。確信犯的に俺に夏美との仲を見せつけた。それは俺が否定できないもので、客観的に見ても二人の関係は本物の信頼で成り立っている。普段は感じない分、重く俺にのしかかる。
 俺よりケロロのほうが夏美に近い存在だということだ。

 俺の居場所はここにはない。ケロロが無言で指摘した俺の怒りの矛先を、それによる失望感を、重い足取りで引き摺る。夕陽が赤く照り返す窓に向かう。

「ギロロ?」
 夏美が背中から声を掛ける。

「今日はアンタもここでご飯食べてよね」
「…ふっ、どうして俺が?」
 家族ごっこはケロロで充分だろう。俺の心は完全にひねていた。足は止まることなく、窓際に辿り着いた。

「いーから!たまにはいいじゃない。ね?アンタからも何か言いなさいよ」
「我輩が言うより、言い出しっぺの夏美殿が言ったほうがいいでありますよ。ゲロゲロリ」
「何よそれ?…って!ギロロ!」

 もう閉めた窓の中での会話は、それ以上聞こえなかった。いや、地獄耳の俺の耳には届いたかもしれないが、聞く気もしない。空しさを覚える。真っ赤に焼ける西の空に、俺はため息をひとつ飛ばした。
 ここにいたくない。そんなふうに思うときがあるんだな。と他人事のように思った。元から孤独なのに、今の孤独には耐えられそうもない。
 真上の空を見上げた。東から闇に移ろっていく青と赤の境目。

 空を飛んでみようか。俺は一人だ。明日の朝まで戻るから、誰もいなくなったことに気付かない。誰も俺を探さない。



continue

2006/04/14