特別な日なら…
11 ![]() N viewpoint 「これで懲りたと思う?」 「いいや、全然。あいつら、きっと待ってるぞ」 二人で踏み潰した盗聴器を見下ろして、あたしたちは困った顔をしている。想いを通わせたばかりで、ただでさえぎこちないのに、それをみんなに知られている。内緒で付き合いたいと考えてたわけじゃないけど、今日明日に誰かに教えるつもりなんてなかった。 「やっぱりそう思う。どんな顔して帰ればいいのよぉ」 「…うむ」 ギロロは気のない返事をした。あたしはまた座って、ギロロと同じ目線に戻った。 「ギロロ?」 「うわっ…至近距離はやめろっ」 ギロロがあたしを避けようとするからでしょ。すぐに不安になるじゃない。 「そっ…、そんな顔はもっとやめろ!」 「なんでよ!」 ってどんな顔よ。あたしは不安を表情に出さないようにしてるの。感情表現が下手だけど、上辺のコントロールは上手なのよ。 「悲しそうな顔を見せると、…おかしくなりそうだ」 「え?あたしが…」 両手を頬にあて、自分の顔を隠すように俯いた。ギロロを困らせる顔を、隠していたつもりの感情を、あたしは無意識にしていたと思うと、とても恥ずかしい。 「違う。そんな意味じゃない。それが本当のおまえなら、隠さず見せてほしいくらだが…」 「……ギロロ?」 顔をあげたあたしに、ギロロの真剣な瞳が心を刺す。 「さっきの…、思い出すから…。自分が怖い」 あたしは思わず身体を引かせた。クルルたちに仕掛けられた機械に演じた、口先の芝居のことだ。 「あれは、ボケガエルたちを、懲らしめ、…るために、その…。ギロロがやれって言うから」 「す、すまんな。無理をさせて」 ギロロは瞼を伏せ、詫びた。 「違うの!嫌じゃない。無理じゃない。ごめんなさい!」 あたしは慌てて口走ったが、ギロロは取り付く島も無い。ギロロはやっぱり大人なのね。あたしが幼稚に思えてくる。 「落ち着け。おまえが謝る必要は無い。…まだおまえは知らなくていい」 「…子ども扱いしてるのね」 あたしは拗ねたような自分の声に、自分で驚いた。本当の子どもみたいよ。泣きそうな顔でギロロの背中を見る。何を言っても、応えてくれそうもないその背中。大きく見えてくるから、もっと不安になる。 こんな気持ちになるんだ。ギロロの態度一つで簡単に喜んだり、不安になったりする。あたしは本当にギロロが好きなんだと、実感する。 「いつか、教える」 あたしとよく似て不器用なはずのギロロの言葉。どれにも嘘はない。あたしを愛している。あたしを離さない。あたしの側にいる。だからいつか教えてくれるその言葉も本当よ。 「うん…」 「俺たちはまだ始まったばかりだ」 あたしはまた頷いた。涙が零れ落ちたことは、ギロロには気付かれていない。 |