特別な日なら…
3 ![]() N viewpoint 「ちょっと邪魔するわよ」 「先輩いなくなっちまったらしいな」 手は休めず笑いながらキーボードを打っている。陰険な笑いに圧倒されそうだけど、クルルってそんなヤバイ奴でもない。肝心なときには、みんなを助けてくれる。はず? 「俺に何か用かい?」 「アレ貸してほしいの」 「…あー。アレかー…。まあ、いいぜ」 ほらちゃんと用意してくれてるじゃない。そう、以前にボケガエルが行方不明になった時、クルルが作ってくれた飛行ユニット。 「でも、ナビはないけどいいか?」 「ふん、いいわ」 クルルは椅子の背もたれにもたれて、短く「くっくっく」と笑った。 「何よ」 「いーや。ナビなくても見つけられる自信がありそうだな?」 「そ、そんなんじゃないわよ」 あたしに宛てがあるとすればひとつ。ギロロは夕陽に向かって飛んだはず。それだけ。 「ま、そんなアンタに見つけてもらえるなら、先輩も本望だね。くーっくっく」 「ちょっ…なんでクルルまでそんなこというのよ?」 クルルは少し意外そうに眉をひそめて、発射レバーに手をかけた。 「あれほど分かり易い奴もいないんじゃねえ?あ、でも肝心のアンタは鈍感なんだっけ?苦労するねえ先輩も」 「あたしを鈍感って言うな――!!」 叫びながら、あたしは大空に飛び出した。 「あ、ナッチー!どこにもいないですぅ」 「タママ!」 東の暗い闇夜から、黒いタママ。可愛い声がなかったら、オカルトの世界だわ。苦笑しつつ、タママのフライングボードを待つ。案の定タママは弱音たらたら。 「僕、おなかすいたですぅ。探しながら、伍長さんにあげるはずの本場ベルギーから直輸送されたスーパーボリフェノール入りの今東海岸のセレブを夢中にさせている超レアなチョコレート、すっかり食べきっちゃったですぅ。戦場でも甘いおやつは貴重だから、僕がせっかく選んだのに、もったいないですぅ」 「わかったわよ。ボケガエルも探してるし、休んでていいわよ。冬樹たちと家で待ってて」 可愛さに免じて許しちゃうけど、きっと、タママなりに結構探したのよね。それに多分、ギロロは西にいるはず。タママは見当違いの場所を探してたのかもしれない。 「いいんですか?うわーい。じゃ、そうします。伍長さんもナッチに見つけてもらうほうがうれしいですぅ」 「え?タママまでそんなこと言うの!」 「鈍感なナッチーにはわかんなくていいですぅ。早く伍長さんを見つけてくださいね」 「ど、鈍感?あたしが鈍感?」 あたしの嘆きを聞かないまま、タママは陽気な声を出しながら下へ飛んでいった。 ボケガエルにも、クルルにも、タママにも言われた。同じこと。 あたしは鈍感で、そして…。ギロロがあたしを…。意識しているってこと?あたしに素っ気無くされると傷ついたり、見つけてあげると喜ぶの?ボケガエルたちが口を揃えていう。みんな何を知っているのよ。 ギロロとあたしがどうなのよ。 「……」 風を受けて西へ飛ぶ。またさっきより夕暮の色が、濃紺に浸食されている。早く見つけなきゃ。 あたしは余計なことは考えたくない。ギロロの色に似た夕陽が落ちた空に、向かいスピードをあげた。あたしの頬は多分赤い。一人でいるときは、見栄を張ったり、誤魔化したりしなくてもいい。それでもあたしは認めたくなかった。 「何よ!…ギロロが何よ…。アイツはただの宇宙人で、居候で…、そうよ侵略者よ!敵なのよ」 敵…。 今は想像できないけど、アイツらが万が一その気になったら、戦わなきゃいけない相手になるのよ。 「そんなの許すわけないじゃない…」 アイツらに地球は渡さない。でも今は本当はそんな大袈裟なこと考えていない。 「ギロロ…」 「…ホントのこと、教えてよ」 あたしは鈍感じゃないの。そのほうが楽だから、何かが壊れそうで怖かったから、そんな振りをしていただけだど、今は言える。 どんな時でもアンタはあたしを最優先に考えて、助けてくれる。まともに合わせない視線なのに、いつも見守られている安心感があった。それはどんな言葉に置き換えられる感情なの?友情?それとも…。 他人の口から出る言葉で、アンタの気持ちを知るなんて嫌よ。真実はその中にあるのかもわからない。 あたしは? あたしはギロロをどう思っているの? 上辺の心にいくら聞いても、正直に答えない。でも、あの夕陽の色を見てると、言えそうよ。 「あたしはアンタのこと…、……」 |