特別な日なら…
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G viewpoint


 ここにはもちろんはじめて来たが、前面に海が見える断崖はなかなかご機嫌だった。ペコポン人どもに見つかる心配もない。絶えず吹く海風は少し寒いが、適度に湿り気があって悪くはない。
 やがて完全に闇に覆われるであろうここは、随分広い密室のようだった。

「あー!、ギロロみっけ」
「おわ!どうして、こんなところに!?」
 青天の霹靂とはこのことで、俺は心底驚いた。僅かな落日の残りが、上空から降りてくる緑色の物体を照らした。
 ケロロだ。
「んもう、探しちゃったでありますよ。といいつつこのナビがあったから、簡単だったでありますよ」
「あ?…ということは、俺を探してきたのか?」
 ケロロはただのドライブでここまで来たわけではないのか。そう言えば、ケロロは夏美と仲良く料理をしてたはずだ。ぶらっと空を飛ぶ理由はない。
 フライングボードから降りたケロロを、少し恨めしそうに睨んでしまう。おまえのせいで、俺はここにいるんではないか。

「緊急事態ではなさそうだな。どういう理由だ?子どもじゃないんだ。どこかのボンクラのように、迷子になっているわけでない」
 何年も前にあった本当の話だ。不良品のソーサーを乗り回しているうちに、帰れなくなったケロロを夏美が探したのだ。その時に夏美が使っていたナビで俺を探し当てたのか。
 その記憶と同時に思い出す、夏美とケロロの固い絆。そして少し感じた疎外感や寂しさも。

「ギクッ。そんな昔のことはどーでもいいでありますよ。それより、どうしていなくなっちゃったの?」
 ケロロは俺の隣に腰を下ろし、語尾をあげてねちっこく聞く。見つけたというわりには、すぐに帰宅を促すわけでもない。

「そんな日もあるさ」
 悪態に近い素っ気無い俺。ケロロはもうお見通しのように、にんまり笑った。
「ヤキモチでありま…」
 聞き終わらないうちに、ケロロの顔面を殴った。認めたと同じ、浅はかな行為だった。案の定、ケロロは目を回しながら、「図星でありますな」と言った。

「…まだまだ作戦は終わってないでありますよ。ゲロゲロリ」
 ケロロは不確かな足取りで、フライングボードに乗って動力を入れた。
「俺を探しに来たくせに、一人で帰るのか?」
 呆れてケロロを見上げると、俺のあぐらに小さな箱型の物体を投げた。

「おい!これはなんだ!…おい!俺は…!」
 帰らなくてもいいのか?とすっかり暗くなった夜の闇に消えていく、ケロロのフライングボードに叫んでも無駄だった。
「とりあえず、なんなんだコレは。ふんっ、どうせクルルの発明品だろう」
 一つしかないスイッチを押すと、緑のライトが灯り、なにやら物音が聞こえ始めた。スイッチはチューニングもできるらしく、左右にまわして音源をクリアにすべく調節した。

『……ギロロが何よ…。アイツはただの宇宙人で、居候で…、そうよ侵略者よ!敵なのよ』

「なっ夏美!?」
 思わず機械に怒鳴ってしまった。どうやら夏美の周辺に集音機が仕掛けられているらしい。俗に言う盗聴になる。これは受信機のようだ。
 背徳感に迫られながらも、俺はスイッチを切ることができない。俺の名前が聞こえてきたから、なおさらだ。
 しばらく夏美の声は聞こえなかった。流れる風音と、羽で空を切るような僅かな機械音。
 夏美は空を飛んでいる。俺は思わず立ち上がって、空を見上げた。

『そんなの許すわけないじゃない…』
 俺は夏美には近づけない存在だと、言われているようで辛かった。手元のスイッチを切りたくなる。その時、また夏美の声が聞こえた。弱々しい声で俺を呼ぶ。
『ギロロ…』
 俺を探しているのか?どうして…俺を呼ぶんだ。俺は胸の奥に切ない痛みを感じた。
「夏美…」


『…ホントのこと、教えてよ』

 何が知りたい?
 夏美、何を探しているんだ。俺か?それとも、俺の何を知りたいんだ。それはどうしてだ。

『あたしはアンタのこと…、……』

 受信機の小さい光が緑から赤に変わって、その後はもう聞こえなくなった。どうやら音は遮断されたらしい。
「夏美」
 俺は静かに答えるよ。侵略や異種人やたくさんのしがらみに、隠していた真実はひとつだけだ。

「俺はおまえを、…愛してる」



continue

2006/04/18