特別な日なら…
6 ![]() G viewpoint 『愛してるわ、…ギロロ』 コントローラーに再び緑のライトが灯ったと思ったら、この言葉が流れてきた。 「…なっなっ…!!」 俺は腰を抜かした。目の前に落としてしまったその受信機を呆然と見る。 「まさか、…ありえん!ええい、またあいつらの悪戯だ。俺を担いで遊んでやがるに違いない」 『どこにいるのよ。ギロロ…!!ギロロー!!』 「っく…!夏美…」 機械から発せられる夏美の声は割れていた。どこかで俺の名を叫んでいる。この空のどこかで。再び立ち上がって空に向かう。 騙されてもいい。嘘でもいい。全てがケロロたちの企てで、醜態を晒したとしても、構わない。 苦しくて胸がつぶれてしまいそうだ。 「夏美…。夏美ーっ!!」 夜空に咆哮がこだまする。波の音に掻き消されても、どこを彷徨っている夏美に届かなくても、俺は叫ぶ。まだひとかけらの真実も確かめられないのに、俺は泣いていた。 こんなに深く愛していたことに、自ら改めて知る。 一つため息を吐いて、俺はふいに東の空を見上げた。海と反対方向の闇夜。 「…な、つみ?」 飛行ユニットの翼が、神秘的に輝いている。まるで初めて見る生き物に遭遇したような、ショックを感じる。それは天使だ。美しく、優しく、柔らかい空気に包まれ降りてくる。 「ギロロ…!」 俺たちは見つめ合ったまま、距離を縮めた。その先に出る言葉が思いつかない。機械を通して聞いたさきほどからの夏美の言葉は真実なのか、確かめたい。俺の気持ちを伝えたい。 生涯、封じ込めるつもりだった想い。堰き止めていたゲートは強大だった。それは侵略する名分、異種人という障害、そして軍人としてのプライド。 だが、堰は崩れようとしていた。いくつものハードルも、とめどなく溢れ出る愛しさで難なく壊される。 「やっと見つけた…」 静かに地面に着いた夏美は、俺と同じようにどこかよそよそしい。無理に笑って見せた。急に俺も冷静を取り戻してきた。予想外のクールダウンだ。勢いのまま事の真偽を確かめ、俺の気持ちを伝えたかったはずなのに。 「…してやられたな…」 ケロロたちに夢を見させてもらったんだ。自分で納得すると、不思議と怒りすら湧いてこない。 「何のこと?」 「い、いや。なんでもない。それよりどうして俺を探しに来たんだ?ケロロの奴も、おまえも。今夜に限って、なにかあったのか?」 俺はフライングボードの動力を入れた。二人きりが辛い。日向家から逃げるように飛び出したくせに、今は早く帰りたい。我ながら情けない意気地なしだ。 「それは…!……今日が特別な日だからよ」 夏美は俯く。夜のせいで、いつもなら見える角度の夏美の表情が見えない。 「初耳だ。だが、俺には関係ないだろう。好きにやればいいものを」 少しきつい言い方か?いや、いつもの俺の範疇だろう。 今にして思えば、昼間のケロロと夏美の行動の合点が行く。いっしょに料理をしたのは、この企てのせいか。 「そうね…」 寂しそうに夏美はそう呟いたきり、黙って夕陽の落ちてしまった西の海を見つめた。 |