特別な日なら…
7 ![]() N viewpoint やっと見つけたギロロは、あたしの想像を裏切った。手の中に握り締めている箱から聞こえたギロロの言葉は、嘘だったの?ボケガエルにしてやられたの? 昼間、あたしが言い出したパーティの企画に乗ってくれて、いっしょにご馳走を作っていたのに。その裏でクルルと結託して、あたしを騙したの?怒りより、悲しさが湧き上がる。泣いちゃいそうよ。 そうか、夕陽は沈んだんだ。空にギロロの色はひとつも残ってない。あたしの心を溶かしたあの色は、もうなくなった。 ギロロはフライングボードに乗って、もう帰るだけよ。あたしは昨日と何一つ変わらない明日を待つしかないのよ。元から、何もなかったこと。そうよ。 家に帰ってもお祝いの席はもうない。そう、今日の特別な意味は何もなかったことなのよ。何も。 でも、なぜだろう。あたしの口を割った言葉は、自分を納得させた言葉ではなかった。 「…あたしと初めて会った日のこと、覚えてない?」 顔を見られないように、あたしは膝を抱えて座った。ギロロはもう帰り支度なのに、あたしはないものねだりする幼児のようだ。 「なっなんだ!急に」 無言でその先を待つあたしに、ギロロは言葉を選んだ。 「あれは強烈だったからな。忘れたくても忘れられないものだ」 ギロロのプライドをなぎ倒したはじめての出会いは、懐かしい記憶だけではなく、軍人としてのギロロには恥ずべきものかもしれない。 「…それが、今日の計画だったのよ」 「え!?…きょ、今日!?計画…?…ま、まさか、俺の!?」 自分が祝ってもらう主役とは、思ってもいなかったらしい。目を白黒させて、唖然としている。あたしはショックが和らいで、くすっと噴出してしまった。 「うん、そう。ごめんね。最初から言っても、ギロロは嫌がると思って。…そのー、…ボケガエルが、変な工作しちゃって…」 「お…おっ…、俺と、おまえの出会った日を祝うだと?」 真っ赤になって照れてるより、むしろ怒っているふうのギロロ。あたしはすっかり普段の自分に戻っていた。 「だってアンタの誕生日とか知らないし、嫌がるの見え見えでしょ」 「そ、そうか…、確かにそうだな」 どこか不満げに、言葉尻が弱い。いくら年上だと言っても、こんなギロロを見ると優勢の位置にいる感じになってしまう。 「でも、企画は中止。主役がトンヅラだもの。ボケガエルは今ごろ、御馳走をもう食べちゃってるわ」 空を見上げたあたしの火照った頬に、冷えてきた夜の空気が気持ちがいい。少し胸が痛いけど、さっぱりしている。 あたしはギロロが好きなんだ。初めて認めた自分の気持ち。不器用で頑固で、でも寂しがりや。あたしとよく似ているから、かえって扱いにくい。笑っちゃうほどね。 「おなかすいたね。帰ろっか?」 いつの間にか、あたしの横に立っていたギロロは、じっとあたしを見つめていた。 「ギロロ?」 |