ギリギリ
4 ![]() 「例えば、ダイエットだ」 「うっ」 上目遣いで俺を睨んだ。俺としたら軽い問だったが、答えにくい類のそれだったらしい。そんな反応されると、逆に関心が湧くものだ。 「…だって、差がついちゃうもん」 「はぁ?」 相変わらず要点を得ない答え方。俺から視線を外し俯き加減の夏美の横顔を見つめ、彼女の答えの続きを待つ。 「だって、ただでさえ大きくて可愛げのない女でしょ」 「な、夏美…」 膝に置かれた夏美の拳が、少し揺れた。俺だって激しく動揺している。 夏美が俺のために体型を気にしているというのか。 「俺のため…なのか?」 「ストレートに聞くのね?…そうよ!そうなのよ!ふんだ!…だって、だってギロロが悪いのよ!」 すぐにそのわけを確かめようとしたが、夏美は俺をさえぎって話し出す。 「だって、ギロロってばあたしに告白しといて、その後1年もなんにもしようとしなくてさ…。名前はなんだっけ、ほら、ケロン人の女の子いたじゃない。あたしだってあんな風になろうとしてないけど、つか無理だけど、でもさ、でもさっ」 「バカな…」 俺のためにそんな努力していたのか。ましてやケロン人を引き合いに出し、張り合う気だったのか。夏美の言葉も気持ちも俺の想像を越えるもので、思わず俺は口走っていた。 「何ですって!?」 「あ、いやそんなつもりじゃなくて」 夏美に睨まれて、俺は急いで否定する。 「…だけどそうね。バカだわあたし」 自嘲する夏美は久しく見ない。俺は彼女の横顔を見つめるしかできない。 俺との体格の差、進展しない関係を、彼女が気に病んでいたことに、静かに感動している。 「どう変わろうと、大きくなろうと、そのままのおまえで、おまえがいいんだ」 さすがに俺はそれだけ言うと、顔を背けた。 夏美も甘ったるい空気を嫌ってか、 「やだなーもうっ、あたし頭悪すぎ。バカだし、あははは」と、手のひらで顔を仰ぐ。 扱いにくい性格だ。 不安なくせに、確かめない。 言わせたくせに、受け止めない。 極端に恥ずかしがりやの彼女は、ことごとくムードを壊す。 俺と似ているが、今の俺は違う。全て伝えきりたい。いや違う。おまえとならば、作られた紛い物の恋愛ドラマのくどいほどの甘い雰囲気に浸りたいんだ。いつでも、どんなときでも。 せめて今夜は二人っきりだ。 無駄な言葉で飾った台詞の端々に、見え隠れするおまえの気持ちが本当なのだろう? 俺に期待している。嫉妬している。そうなのだろう? 自意識過剰ではなく、妄想でなく、俺は彼女の気持ちを認める。夏美は俺を愛している。 俺の彼女への気持ちの大きさにはかなうことはなくても、彼女にとって俺は唯一の存在のはずだ。 「少しは真面目に聞け」 俺は夏美の手を掴んだ。 一瞬、夏美は怯えた顔を見せた。それでも俺は遠慮はしない。そのままくちびるを奪うつもりだ。覚悟をしろ。 |